*正しい姉弟の切愛事情*
「そうそう、一歌ちゃん知ってる?」
目を大きく開いて、話したくて堪らないという顔。
出た、と思いながら何気ないふうを装って「何がですか?」と問い返した。
すると奥村のおばさんは早口で喋り始める。
「3丁目の中里さん、あそこって大学生のお兄さんがいるでしょう?」
その目は獲物を捕らえた獣みたいにギラギラしてる。
「中学生の女の子と付き合ってるらしいのよ。ほら、あの人、塾の先生のアルバイトしてるじゃない? どうやらそこの生徒らしいのよね」
眉間にしわを寄せて、それでも楽しそうに見えるのは何故なんだろう。
「何考えてるのかしらねぇ、教え子に手を出すなんて。普通じゃないわよねぇ。しかもまだ中学生よ」
普通ってなんだろう。
そう思いながら「そうなんですか」とあたりさわりのない返答をする。
と、おばさんはわずかに身を反らした。