*正しい姉弟の切愛事情*
「瑞貴」
しんと静まり返ったドアの向こうに、続けて呼びかける。
「電話、だよ。江崎さんて子から」
自分でそう言った瞬間、頭の中にピンクの花柄が弾けた。
いつか瑞貴の部屋で見た可愛らしい封筒。
いまどき手紙なんて珍しいって思って、つい差出人を見てしまったんだ。
そこに書かれていた名前が、江崎そのみ、じゃなかったっけ――?
考えていると、目の前のドアがゆっくり開いた。
弟が姿を現す。
たったの数時間ですっかりやつれてしまったような虚ろな顔。
制服姿のまま寝っ転がっていたのか、シャツもズボンもしわくちゃだ。
そして、その目は……少し、赤らんでる――?
ずきりと胸に小さな痛みが走る。
瑞貴は目を合わせないまま、私の手からそっと電話を抜き取った。
そのまま、ドアのふちにもたれて通話を始める。