*正しい姉弟の切愛事情*
「はい……江崎? あぁ」
静まり返った廊下に透明な声が響く。
「……いや、まだだけど」
低音の合間に子機からこぼれる彼女の声は、瑞貴の細い首筋を滑り落ちていくみたいだった。
なにを喋っているのかは分からないけれど、明るくて楽しそうな声音で、それに呼応するように、瑞貴の声と表情も緩む。
「はあ? 何やってんだよ」
電話中の弟を見つめている自分に気づき慌てて階段に戻ろうとすると、背後から腕を掴まれた。
瑞貴が電話を続けながら反対の手で私を掴んでいる。
「わかった。じゃあ明日」
電話に向かってじゃあな、と言って通話を切ると、そのまま私に子機を差し出した。