*正しい姉弟の切愛事情*
「一歌」
「ひゃい!」
不意に耳元をかすめた声に妙な声を上げてしまう。
見ると、瑞貴が怪訝な顔で傍らを指差していた。
「鍋、焦げてるけど?」
「えっ? あっ、あーっ!」
握っていた包丁を置いて、慌ててコンロの火を止める。
キッチンには換気扇が吸いきれなかった焦げ臭いにおいが充満していた。
そして鍋の底に焦げついた大根と豚肉……だったはずの黒い物体。
「うわぁ……やっちゃった」
料理を失敗するなんて、いつぶりだろう。
真っ黒に焼け焦げた鍋の底に、長いため息を落とし込む。と、
「なにぼーっとしてんだよ。あぶねーなぁ」
呆れた口調で言いながら、瑞貴はキッチンから離れ、リビングのソファに座った。