*正しい姉弟の切愛事情*
「一歌」
不意に投げかけられた声に、身体が跳ねる。
「な、なに……?」
慌てて振り返ると、弟は怪訝そうに私の手元を覗き込んでいた。
「どうすんの、それ……?」
視線を落とすと、お父さんのワイシャツのポケットに、靴下をぎゅうぎゅうにつめていた。
「え、わぁ!」
まるで穴倉から蛇がいくつも飛び出しているみたいな有様に、自分で驚く。
「なにやってんだよ」
無表情を崩し、瑞貴がくすくす笑う。
そのほころんだ顔が、困ったことに私の胸をきゅうきゅう締め付ける。
ああ、もうダメだあたし。
「ちょ、ちょっとシミュレーションしてただけ」
跳ねる心臓を抑えながら言うと、
「なんのだよ」
さらに笑われてしまった。
「わけわかんね」