*正しい姉弟の切愛事情*
自転車を支えながら片手で取り出すと、サブディスプレイに『瑞貴』の2文字が点滅している。
どうしたんだろう、まだ学校にいるはずなのに。
「ちょっとごめん」
エリカちゃんに断りを入れて携帯を耳に当てると、遠くから弟の声が聞こえてきた。
『一歌?』
「うん、どうしたの? 学校は?」
問いかけると、一瞬間をあけて小さくつぶやく。
『病院行くって言って早退した』
「病院!?」
思わず上げてしまった声に、隣のエリカちゃんが目を丸くする。
私は慌てて電話の向こうに声を戻した。
「な、どうしたの? どっか具合悪い?」
『いや、体育の時間に突き指して……腫れがヒドイから、一応病院に行けって』
「わかった、あたしもすぐ帰るから」
『……一歌、学校は?』
「今日は午前授業だったから、もう終わりなの」
『ふーん』
電話を切るとエリカちゃんがきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「ごめんエリカちゃん。弟が突き指して、病院連れてかなきゃいけないから、先に帰るね」
「え? あ、うん」
彼女の言葉を最後まで聞かずに、私は急いで自転車にまたがった。