*正しい姉弟の切愛事情*
「そうだ一歌」
「ん?」
動きを止める私を見据え、瑞貴は言葉を続ける。
「あとで夜食持ってきてくんない? 今夜中に塾の課題を片付けたいから」
「あ……うん、わかった」
なんとなく目を逸らして答えると、お父さんの優しい声が食卓に降りた。
「勉強、あんまり根詰めすぎるなよ」
「うん」
父親の言葉に軽く頷いて、瑞貴は再び階段を上りはじめた。
23時過ぎ。
夜食のおにぎりを持って貼り紙の前に立つ。
前までは威圧的だった『無断入室禁止』の言葉も、今ではなぜか瑞貴の弱さをあらわしているように思えた。
虚勢というか、強がりというか。
思春期のひと言では片付けられない複雑な葛藤に、弟はひとりで苦しんでいたのかもしれない。
でもそれは、私だって同じだ。