*正しい姉弟の切愛事情*
「瑞貴、夜食だよ」
声を掛けながらノックしても返事がない。
沈黙したドアの前で、このまま立ち去ってしまいたいという衝動と闘う。
ただ夜食を置いてくるだけのほんのわずかな時間だけど、
瑞貴の部屋で2人きりで間近に言葉を交わすと、いろいろ思い出してしまいそうだった。
机に伏せていた瑞貴に最初にキスをされた手とか、
唇の柔らかさとか、
強くて儚い視線とか。
いつかの深いキスとか――。
思い出したら姉として普通に振る舞えるかどうか……
正直自信がない。
自分で思ってるよりもずっと、家族では到達できないほどの心の深い部分に、瑞貴は入り込んでいる。