*正しい姉弟の切愛事情*
居間に面した襖(ふすま)から、微かに光が洩れている。
お父さんが自室に入ったのはだいぶ前だけど、まだテレビでも観ているのかもしれなかった。
いつものようにイヤホンを使っているだろうから音までは聞こえない。
時計で時刻を確認して、私はキッチン下の戸棚から米びつを取り出した。
お米をといで炊飯器のタイマーを入れて……
考えていると、階段を下りてくる足音が耳に届いた。
「一歌」
「あれ、どうしたの」
弟は階段を下りきるとまっすぐ冷蔵庫に近づき、麦茶のポットを取り出す。
「喉渇いたから」
そう言って食器棚のコップに左手を伸ばす。
その中指は依然として包帯に包まれたままだ。