*正しい姉弟の切愛事情*
私が押す自転車の向こうを、口笛でも吹きそうな顔で歩いている、私の彼氏。
早くけじめをつけなくちゃいけないと思いながら、重い気持ちを引きずって自転車を進める。
「もーすぐ夏休みだな。あーその前に期末か」
だりーな、と言いながら伸びをする。
Tシャツの上に羽織った半そでのカッターシャツから、筋張った腕が覗いた。
石川君の大きな手。
おしゃれで、背が高くて、明るくて気さくで――
嫌いなわけじゃなかったのに。
「海とか行きたくね? あ、いちかって泳げる? 俺はこう見えてもすげースイマーだよ。ガリっぽく見られっけど胸筋とか意外と――」
「いし、かわ、くん……」
立ち止まった私に気付き、彼もぴたりと足を止める。
「ん? どした?」
不思議そうに私を見下ろす、情の深そうな少し厚めの唇……。
嫌いじゃなかった。
瑞貴に触れることがなければ、そのまま好きになれていたかもしれない。