*正しい姉弟の切愛事情*
「リハビリって痛くなかった?」
細い腰に掴まりながら訊ねると、前から声が流れてくる。
「別に痛みはなかった。指だけ風呂に入った感じ」
「風呂?」
ゆっくり走る自転車は、ぬるい空気を風に変える。
瑞貴の背中に頬を寄せて、風に混じる声を懸命に拾った。
「なんか泡風呂みたいのに指を突っ込んで。超音波で血行を促進とか」
「ふうん、なんか気持ち良さそうだね」
私も今度は見学させてもらおうかな、と口にする前に、瑞貴の声が遮った。
「一歌はリハビリ室、来なくていいから」
「え、なんで?」
思考を先読みされたことを単純に驚いていると、
「あの久保ってのに近づくなよ」
瑞貴はリハビリを担当してくれた理学療法士の名前を口にした。
「え、どういうこと……?」
「あいつ、馴れ馴れしいから」
吐き出した声が風になって背後に消えていく。