*正しい姉弟の切愛事情*
どうやら弟はリハビリ室で久保さんに何か気に入らないことを言われたらしい。
だからさっきからなんとなく不機嫌なのか。
まっすぐというか、単純というか。
なんだか可笑しくてつい笑ってしまう。
と、瑞貴はわずかに首を回してこちらを窺った。
「なに?」
「ううん、良かったね、指。順調に治ってて」
「んー、早く包帯とりてー」
かゆくなんだよなぁ、とつぶやく瑞貴の背中越しに、ハンドルの上で一本だけまっすぐ伸ばされたままの中指を見る。
週一回の通院時に巻きなおしてもらっても、包帯は汗や埃ですぐ汚れてしまう。
「指が治れば、もっと……」
不意に言葉を途切れさせた。
「ん? なに?」
腰に掴まったまま身を乗り出すと、
「……なんでもない」
ぶっきらぼうな声が返ってきた。