*正しい姉弟の切愛事情*
家の前まで来ると、瑞貴は自転車を停止させ「あ」とつぶやいた。
「あらぁ」
少し大げさにも感じられる抑揚のきいた声に、はっとする。
「一歌ちゃんじゃない。瑞貴くんも」
「あ、こんにちは……」
隣の家の奥村さんが、郵便受けから新聞を取り出しているところだった。
「珍しいわねぇ、ふたり一緒なんて」
私も瑞貴も制服だから、学校帰りだと思ったのかもしれない。
けれどあえて訂正しなかった。
病院帰りだなんて言って、変にご近所の噂になっても面倒だ。
「瑞貴くん、なんだか久しぶりねー。ちょっと背が伸びたんじゃない?」
噂話の獲物を見つけた目で、奥村さんは門扉から出てきた。
エプロンをかけたままで足元はサンダル履きだというのに、長話をするつもりらしい。
それを察して瑞貴は早々に目を逸らす。
「俺、先行ってる」
私に自転車を渡し、奥村さんに会釈だけ残して家の中に入っていく。