*正しい姉弟の切愛事情*
礼節を重んじる奥村さんからしたらおもしろくない態度だけど、瑞貴は思春期の男の子ということで、わりと大目に見られている。
自宅に消えていく背中を横目で見ながら、奥村さんは声を落とした。
「ねえ一歌ちゃん、このあいだ男の子と歩いてたでしょ」
「えっ」
私は支えていた自転車を放しそうになった。
そんな私を見て、奥村さんは目尻にしわを集める。
「うふふ。たまたま見ちゃったの。背の高い、髪の毛がこうぼわっとした男の子」
石川君の、ことだ――
「彼氏なの?」
「いや、あの……えっと」
いつどこで見られたんだろう。
答えに詰まっていると、奥村さんは顔を寄せてきた。
「ねえ、一歌ちゃんて男の子から人気があるんじゃない?」
「えっ!?」
「しっかりしてるのに控えめで、あなた見てると自分の若い頃を思い出すのよねえ」
「は…はあ」
「実はね、あなたのことを気に入ったっていう人がいてねー。でも今時お見合いなんてねぇ。あなたまだ高校生だし。あ、私の頃もあったのよお。縁談話を持ってくる人がいてね」
「……」