*正しい姉弟の切愛事情*
「はあー」
台所に立って長い溜息をついた。
ようやく立ち話から解放されたけど、一日分の体力を消耗したような気がする。
窓の外は群青に染まり、家の中はもう薄暗い。
「さて、と」
時計を確認し、私は夕飯の支度にとりかかった。
制服の上からエプロンをつけ、袋からジャガイモを取り出す。
そのまま洗おうとしたところで背後から伸びてきた手に包まれた。
前に回された細い腕。
左手の中指には新しい包帯が巻かれている。
「み、瑞貴」
弟は声を出さず、その吐息だけを私の耳にかける。
背中にぬくもりを感じて、心臓が弾けそう。
「だめだよ、居間とか、台所でこういうの……」
大人ぶった口調で弟をたしなめるけれど、腕が解かれる気配はなかった。
それどころか、ますますきつく抱きしめられる始末で、
「父さんいないときならいいじゃん」
耳元に落ちた声に、身体が震える。