*正しい姉弟の切愛事情*
「誰? 俺の知ってるヤツ?」
低く鋭い声に身体が震える。
それでも……
「ごめんなさい。言えない……」
目を逸らすと、石川君は苛立ったようにつぶやいた。
「納得いかねーんだけど」
大きな身体が一歩、私に近づく。
その迫力に、思わず後ずさりしてしまう。
石川君は背を屈めるようにして、逃げようとする私の視線をとらえる。
「だって、一歌は俺と付き合ってんだろ? 家事だって忙しいはずなのに、他の男に惹かれてる暇なんかあったのかよ」
「それは……」
言葉が続かない。
弟だから、同じ家に住んでるから。
石川君よりも多くの言葉を交わして、瑞貴と時間を共有してきたから。
黙りこんでいると彼は長いため息を吐いた。
「俺さぁー、知ってんだよ」
その言葉に鼓動が加速した。