*正しい姉弟の切愛事情*



「ほんと、しつけーよな。あいつ」

「……あたしが悪いんだよ」
 

そう言うと、瑞貴は持っていた単語帳から目を上げた。


「そうだ、一歌が悪い」
 

突き放すように言われて、言葉に詰まる。

瑞貴は口にしないけど、はっきりしない私に本当はイラついてるのかもしれない。


「ど、どうせ、あたしは打算的で腹黒くて、心の中が汚れてるんだ」
 

自虐的にまくしたてた私を見て、瑞貴は吹き出した。


「そこまで言ってないし」


くすくす笑われて顔が熱くなる。


「なに卑屈になってんの」

「だって」


石川君の苦しげな表情を思い出すと泣きたくなる。
 
弟は顔にわずかな笑みを残して座卓の参考書に目を移した。


「汚い人間は人を傷つけたって、きっと罪悪感すら湧かない」
 

端正な横顔が、淡々と告げる。


「一歌は綺麗だよ。濁りがなさ過ぎて、ちっちゃいコトに過剰に反応しちゃうだけなんじゃないの」



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