*正しい姉弟の切愛事情*
結局無難に黒色のお弁当箱を買った。
石川君の好みに合わなければ弟のにしてもいい。瑞貴もどうせ来年からはお弁当の生活になる。
ユリと別れた頃には街並みがすっかりオレンジ色に染まっていた。
夕飯の買い物をしようと近所のスーパーに足を向けたとき、鞄の中で電話が震えた。
メールではなく着信だった。
画面に表示された瑞貴の名前が、チカチカと点滅する。
『一歌?』
下がりきっていない低い声が耳に残る。
「どうしたの?」
私の問いかけに、瑞貴が答える。
『今日、夕飯いらない』
「え?」
『コンビニでパンとか買ったから。休憩中に食う』
成長期の身体に、帰宅するまで空腹を課すのはなかなか酷なことだ。
「わかった。でもそんなんじゃ足りないんじゃない? 作るだけ作っとくから」
食べたくなければ食べなくてもいいし。
そう言うと、瑞貴はしばらく黙り込んだ。
その息遣いが耳元に届くようで、どういうわけか緊張する。