*正しい姉弟の切愛事情*
「帰ろ、一歌」
「あ、うん」
カバンを自転車のかごに放り込んでいる弟の横で、久保さんに頭を下げる。
「どうもありがとうございました。じゃあ」
「はい、さようなら」
顔全体で笑っているような、大きな笑みがこぼれる。
こんなふうに笑う人ははじめてだ。
力強くて、なんとなく安心するような表情――。
もう一度頭を下げ、自転車を引く瑞貴と並んで歩き出したとき、
「一歌さん」
診療所の前で立ち止まったままの久保さんに呼びかけられた。
振り返った瞬間、優しげな視線と目が合う。
凛々しい眉を下げて、久保さんは穏やかに笑った。
「うまいもんでも食べて、元気だしてください」
にこーっと表情を崩すと、久保さんは診療所に戻っていった。