*正しい姉弟の切愛事情*
10歳の頃に建てられたこの家は、ユリの家に比べたらずっと小さいけれど、私にとっては居心地のいい大事な場所だ。
お父さんは何も話してくれないけれど、家のローンはまだきっと沢山残ってる。
ぴしりとしたスーツを着ても、どことなくよれているように見える父親の姿を思い浮かべた。
痩せていて、色白の肌に、細いフレームの眼鏡。
疲れたように見える目元の笑い皺。
お父さんが私と瑞貴を大学に通わせたいと考えていることは、普段の会話の端々から感じられた。
特に瑞貴は成績がいいし、いい大学に行かせて将来の選択肢に幅が出るように積極的に塾にも通わせてる。
まるでのめりこむように仕事の愚痴さえ言わず懸命に働いてるお父さんは、
私たちに不自由をさせたくないと思ってるんだろうけど、おそらくそれだけじゃない。
多分……悲しみを忘れるために必死に働いてるんだと思う。
わたしの母と瑞貴のお母さん。
愛する妻を2回も失った哀しみを、振り払うように――