*正しい姉弟の切愛事情*
考え事をしながら、いつの間にか眠っていた。
窓の外には月がのぼっていて、網戸越しに涼やかな風が舞い込む。
「一歌」
呼びかけられて目が覚めたんだと気づいた。
コンコンと、控えめながら幾度となくドアがノックされている。
瑞貴……?
ドアに鍵はついていない。
入ろうと思えば勝手に入ってこられるのに、瑞貴はドアを開けようとしなかった。
私もベッドの上から動けない。
恐かった。
どんな表情をすればいいのか分からなくて、瑞貴の顔を見るのが恐い。
身体を動かすことも、声を出すこともできず、ただじっと扉を見つめた。
心臓だけがじんじん響き、自分以外の世界は全部停止したみたいだった。
そして沈黙の向こう側から、声が落ちる。