*正しい姉弟の切愛事情*
「馬鹿じゃねーの。んなの言われなくたって――」
「分かってないでしょ。いい加減気付きなさい。一歌が苦しんでるのが分かんないの?」
「苦しむ?」
まっすぐな瞳が胸に刺さって、瑞貴を見返せない。
言い訳をしたいところだけど、エリカちゃんに一任したからには黙っていようと決めて、私は視線を上げた。
ちゃんと、見ていなきゃ。
最後まで、瑞貴の表情を。
「このままじゃ2人で沈んでいくだけだって分からない?」
エリカちゃんに厳しく言われ、弟は眉を歪めた。
「沈む? なんでだよ。想い合った2人が一緒にいられるなら、それだけで――」
「人との繋がりを断(た)って幸福に生きられると思う? 人間は1人で生きてんじゃないよ」
「……うざ」
小さく舌打ちをして立ち上がり、弟は背中を向ける。
「待ちなさい。まだ話が終わってない」
「うるさい」
エリカちゃんの怒った口調と瑞貴の苛立った声に胸が軋む。