*正しい姉弟の切愛事情*
 


お互いが存在するだけで幸せな気持ちになれるって、どういう感じなんだろう。
 


買い物袋を自転車のカゴに入れながら、私は石川君の腕を思い出した。

おしゃれなブレスレットと腕時計がはめられた賑やかな手首。

彼の少し厚めの唇に触れたときの柔らかな感触。 


あの唇の触れ合いを、幸せなキスだと、

いつかそう思う瞬間が来るのかな――?



目の前の信号が赤になって、私は自転車を止めた。

片道二車線の大通りを、車が勢いよく流れていく。


引越し会社のトラックが前を過ぎたとき、ふと向こう側の歩道を歩く人影に気付いた。


一瞬だけ心音が高くなったのは、無意識に夕べのことを思い出したせいだ。


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