*正しい姉弟の切愛事情*


「弁当も毎日会社で評判なんだぞ。娘の手作りって言うと大概のやつが驚いた顔するんだよ」

「ふうん」


珍しいなと思った。

お父さんはいつも家では仕事の話をまったくしないから。
 

まあでも、仕事の話じゃなくてお弁当の話だからか。
 
なんて思ってるときだった。


「家の中もいつも片付いてるし、一歌はもうどこに嫁に出しても恥ずかしくないなぁ」
 

冗談めかして放たれた言葉に、思いがけず心臓が反応する。


「な、なに言ってんのお父さん」
 

焦って笑うと、正面の疲れた顔に意地悪そうな笑みが浮かんだ。


「ん? なんだ、まさか彼氏でもいるのか?」

「え…っと……」
 

テレビを見ていた瑞貴がゆっくりと振り返った。

そのまま、まっすぐな目で私を見つめる。
 

柔らかく笑っているお父さんの隣で、その表情はひどく冷たい。



< 89 / 428 >

この作品をシェア

pagetop