*正しい姉弟の切愛事情*
「弁当も毎日会社で評判なんだぞ。娘の手作りって言うと大概のやつが驚いた顔するんだよ」
「ふうん」
珍しいなと思った。
お父さんはいつも家では仕事の話をまったくしないから。
まあでも、仕事の話じゃなくてお弁当の話だからか。
なんて思ってるときだった。
「家の中もいつも片付いてるし、一歌はもうどこに嫁に出しても恥ずかしくないなぁ」
冗談めかして放たれた言葉に、思いがけず心臓が反応する。
「な、なに言ってんのお父さん」
焦って笑うと、正面の疲れた顔に意地悪そうな笑みが浮かんだ。
「ん? なんだ、まさか彼氏でもいるのか?」
「え…っと……」
テレビを見ていた瑞貴がゆっくりと振り返った。
そのまま、まっすぐな目で私を見つめる。
柔らかく笑っているお父さんの隣で、その表情はひどく冷たい。