腕枕で眠らせて
恋をしないなんて。頭で決めてどうにかなるもんじゃないんだ。
積もりに積もった愛しさは、いつか理性を置き去りにする。
まるで古い瘡蓋が剥がれ落ちるように。
時の満ちた傷痕は瘡蓋の下に、必ず新しくて強い自分を用意してくれる。
待ってくれた。そしてこれからも待ってくれる。時が満ちるのを。
「水嶋さん、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます、鈴原さん」
恋をしました。
臆病で、でも、信じられる恋を。
甘えてもいいですか。貴方の優しさに。
「水嶋さん」
ゆっくりだけど、前に進むから。
隣にいても、いいですか。
「紗和己さんって、呼んでいいですか」
切り子硝子のグラスを乾杯で合わせたままそう聞いた私に、水嶋さんは一回瞬きをすると
「もちろんです。美織さん」
そう言って、日溜まりのような笑顔で笑った。