腕枕で眠らせて



恋をしないなんて。頭で決めてどうにかなるもんじゃないんだ。



積もりに積もった愛しさは、いつか理性を置き去りにする。

まるで古い瘡蓋が剥がれ落ちるように。

時の満ちた傷痕は瘡蓋の下に、必ず新しくて強い自分を用意してくれる。



待ってくれた。そしてこれからも待ってくれる。時が満ちるのを。



「水嶋さん、お誕生日おめでとう」

「ありがとうございます、鈴原さん」



恋をしました。

臆病で、でも、信じられる恋を。



甘えてもいいですか。貴方の優しさに。

「水嶋さん」

ゆっくりだけど、前に進むから。

隣にいても、いいですか。



「紗和己さんって、呼んでいいですか」


切り子硝子のグラスを乾杯で合わせたままそう聞いた私に、水嶋さんは一回瞬きをすると



「もちろんです。美織さん」



そう言って、日溜まりのような笑顔で笑った。







< 121 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop