腕枕で眠らせて



ここで車を選択するのが、恋人として正しい答えだと思う。



けど、夜の車で二人きりと云うシチュエーションにはどこかまだ拒絶反応が出てしまう。

それはきっと紗和己さんへの信頼とは別に、もう私の中で生理的嫌悪になってしまってる事なのかもしれない。



それともうひとつ。

車だと必ず家まで送ってもらう事になってしまう。

今の異常に心配性な母の前に、紗和己さんと車で登場したりしたらどうなる事やら。考えただけでイヤだ。



「車置いてっちゃうと、明日困りません?」

「平気ですよ。どうせ明日も朝一で店に来る予定なんで」


それが本当か嘘なのかは分からないけど、選択肢を与えてくれた紗和己さんの優しさに今夜は甘えてしまおう。



「美織さん、晩御飯は?」

「済ませて来ました、紗和己さんは?」

「僕も、店に来る前にサッと」


駅に続くお店が建ち並ぶ道を、ふたり前より近くなった肩を並べて歩く。


「時間、大丈夫でしたらお茶でも飲んで行きませんか」

「いいですね」


少しでも一緒にいたい気持ちを、お互い素直に出せるようになったこの関係が嬉しい。


適当なカフェを探していた私たちの目に『新規OPEN』と書かれた看板の出ている一軒のバーが映った。


「「お酒にしましょうか?」」


同時に口にして見つめあった私たちは、笑いを溢しながらバーの扉を開いた。




< 132 / 285 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop