腕枕で眠らせて
メイクで誤魔化す時間も勿体無くて。
私は途中のコンビニで買ったマスクを着けて紗和己さんの待つ近所のファミレスまで走った。
少しのお喋りだけなら、これで乗り切れるはず。
そうして着いたファミレスで、紗和己さんは電話で言った通り窓際の席で私を待っていた。
「紗和己さん、おまたせ」
「すみません、呼び出しちゃって…あれ。風邪ですか?」
マスク姿の私を見て、紗和己さんの表情が途端に心配に染まる。
「あ、違うんです、あの、空気冷たいから、風邪予防にって」
慌てて言い訳した私に、紗和己さんは半分だけホッとした顔をして
「やっぱり家の前まで行けば良かったですね、すみません」
と申し訳なさそうに言った。
私のつまらないウソで彼の表情を曇らせてしまった事に、またひとつ罪悪感を覚えてしまう。
と、同時にちょっと違和感。
「すみません、今日の僕はちょっと余裕が無いみたいです。美織さんに会いたい一心でそこまで気が回らなかった」
「…何か…ありました?」
紗和己さんの笑顔、いつもと違う。
「…ちょっとだけね。上手く行かない時もあるなって」
そう言って困ったように笑った紗和己さんに、胸がぎゅうっと締め付けられた。