腕枕で眠らせて



「おはようございます、美織さん。よく眠れましたか」


とっくに寝床を空っぽにしていた紗和己さんを探していたら、彼は美味しそうな音と匂いの充満するキッチンに立っていた。


「おはよう、紗和己さん…」


言いながらおずおず入っていったシステムキッチンのテーブルには既に出来上がったサラダと抽出を終え保温に切り替わってるコーヒーメーカーが。


「今、玉子焼いてるんでもうちょっと待ってて下さい」


そう言いながら器用に片手で玉子を割りフライパンへ落としていく紗和己さん。


そのあまりにも鮮やかな手付きに、私の寝ぼけてた頭がみるみる正気に戻り自分の今の姿を客観的に思い出させる。


「え、えっと!私、着替えてきますね!!」


慌ててキッチンを飛び出し洗面所へ向かった私の後ろで、紗和己さんがクスクス笑ってる気がした。







紗和己さんてば、女子力高過ぎ。


先に起きて、お布団畳んで、しっかり身支度整えて、エプロン着けて完璧な朝食作って待ってるって…普通これって女の子の方がすべき事じゃない?


いくら今日は私の方がお客さんとは云え…


そこまで考えて、はたと顔を上げた自分の写った鏡を見れば


…すっぴんで寝癖付きのパジャマ姿の女がひとり。


こっ…これはヒドイ。

初めてのお泊まりで(何もしてないけど)彼氏に女子力でコールドゲーム負けってどうなの。


私は慌てて顔を冷たい水でザブザブ洗うと、ここから挽回するべく顔をはたいて気合いを入れた。



それにしても。

借りたタオルまでしっかり柔軟剤のいい香りがするのが何だか悔しい。




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