腕枕で眠らせて
「あれ?【pauze】からだ」
パソコンに届いてた一通のメール。それは【pauze】のアドレスからだったので私はてっきり紗和己さんかと思って開いたのだけれど。
「なんだろう、今月はもう発注も納品も済んでるのに」
それ以外の用件なら、紗和己さんだったらスマホの方にメールを送ってきそうだけど、と思った勘だけは当たった。
開いたメールに書かれた最後の署名はいつもの『水嶋紗和己』ではなく『玉城夏々』だったのだから。
そして
「えっ…返品…?」
メールに書かれていた内容は私の胸を不安に大きく鳴らせるものだった。
その日の夜、私はいてもたってもいられず慌てて【pauze】へ向かった。
『close』の看板は掛かっているけどまだ鍵はしまっていない扉を開けると、店内には玉城さんがひとりで閉店作業をしていた。
「玉城さん、すみません、あの」
「あれ、鈴原さん。来られたんですか?わざわざ来なくても明日郵送したのに」
薄暗い店内で、玉城さんは入ってきた私を見るとバインダーにペンを走らせるのを止めないままそう言った。
「すみません。でも、早く自分の目で確認したかったので」
焦りが滲む私の台詞を聞いた玉城さんが、バインダーを商品棚の脇に置いてお店の奥へと入っていった。
そして、見覚えのある段ボールの箱をふたつ抱えてくると
「これです」
と言ってレジカウンターの上に並べて見せた。
「……本当だ…割れてる…」
薄暗い照明の下、私の目に映ったのは
郵送用の箱の中で無惨に硝子の砕けたサンキャッチャーだった。