腕枕で眠らせて
「本当にあの時は参りました。まだ【pauze】がオープンしたばかりの頃だったんですけど、玉城さんとふたりで途方に暮れちゃいましたよ」
どうしてだろう。登り掛けた元気がシュルシュルとその手を引っ込めた。
「…ああ…それは大変でしたね」
表情の伝わらない電話のこちらで、ぐんにゃり不器用な笑顔を零す。
「…玉城さんって、オープンの頃から店長されてるんですね」
「ええ、オープニングスタッフです。かれこれ5年になりますかね」
ああ、それは責任感があって当然だ。紗和己さんの信頼も厚いだろう。
「今回の件、玉城さんにもご迷惑掛けてしまいました。すみませんが、鈴原からとお詫びお伝え下さい」
「分かりました。でも、玉城さんもそこまで気にされてませんよきっと」
そうかも。いつもハキハキしてサッパリしてる玉城さんの事だもの。
でも。
今日の玉城さんの何処か冷たい口調が
親切心からとは言え、私のサンキャッチャーを棄てるかと聞いた台詞が
私の胸を、濁らせる。
濁らせている。
「今日の返品分、明日にでも新しい物を納品させて頂きますね。午前中には郵送に出しますから」
嫌な色が漂いそうな気持ちを必死に押し込めると、口調はどこか事務的なものになった。けれど、
「美織さん。もしお時間あったら納品を口実にお店にいらっしゃいませんか?」
「え?」
「僕、明日、夕方から店番なんです。閉店までいますから一緒に帰りましょう」
紗和己さんはまるで悪戯を思い付いた子供みたいに言葉にワクワクを滲ませながら、電話越しの私に伝えた。