腕枕で眠らせて



「お昼、何食べましょうか」



新店舗の建設現場から帰る途中、紗和己さんはハンドルを握りながら私に聞いた。


「栄養のあるものにしましょう。紗和己さん忙しいんだから、体に気を付けなくっちゃ」


「美織さんと一緒なら何食べても栄養になりますよ」


もう。またそんな事言って。言った側から照れてる癖に。


「そんな事言うと、お昼、ケーキにしちゃいますよ。ケーキバイキング」


恥ずかしさを隠そうとちょっと意地悪で言ったら


「いいですね、ケーキ。糖分も大事な栄養ですよ」


なんて切り返し。もう。この人は甘いんだか賢いんだか穏やかなんだかロマンチストなんだか。


クスクスと綻ぶ事が止められなくなった笑いが、紗和己さんにも感染する。



ふたりの笑いで車内がほっこりした時、紗和己さんの鞄からピピピピ…と電話の着信音が鳴った。


慌てる事なく車を脇に停車させ「失礼」と断ってから電話に出た彼を私は大人しく見つめる。


「お疲れさまです。…はい。ああ、そうですか。分かりました、今ちょうど近くにいるんで取りに行きます」


そんなシンプルな会話で電話を切った紗和己さんが私の方を向いて尋ねた。


「美織さんすみません。昼食の前にちょっとうちの店に寄っていいですか。

業者に頼んでいた新商品のサンプル、僕の所に届くはずが間違って店に行っちゃったみたいなんです」


「どうぞ、全然構いませんよ」


突然増えた寄り道に、紗和己さんは進行方向を変えて車を再出発させた。



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