腕枕で眠らせて



あれから玉城さんが何を話したのかは覚えていない。


いつ紗和己さんが戻ってきて、何を話して、車を出発させたのかも。



私の頭の中はよく分からないモノでいっぱいになってしまって、もう何も考えられない。


今は冬で、よく晴れてて、水曜日で。


ああ、そんな事も消えていく。




「美織さん、どうかしましたか?さっきから何か…」


「……停め、て……」


「え?」


「…降ろして………」




お願い、私をここから逃がして。


息が、出来ない。








車はウインカーを出すと直ぐ左に寄って停車した。

カチリとハザードに切り替える音が耳に届く。


「大丈夫ですか?具合悪いですか?」


心配そうなその声も、もう形の無い私の心には何も響かない。


「…ごめんなさい。私、帰ります」


「帰るなら送ります。大丈夫ですか?気分が悪いんですか?あまり酷いようなら近くの病院に…」


慌てるほど心配を滲ませた声でそう言って、紗和己さんは自分の手を私の額に当ててきた。


「熱…は無いようだけど。顔色、真っ青ですよ。少し休んでから病院に行きましょう」



その言葉に私はイヤイヤと首を振る。当てられた手を振り払うように。


「美織さん…?」


「降ろして…お願い、降ろして……」




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