腕枕で眠らせて
美織さん、落ち着いて下さいと言って伸ばされた手を、私は強く振り払った。
そのまま、紗和己さんの顔を見ないで車のドアを開いて逃げ出した。
紗和己さんが何か叫んでた気がする。
けれどもうそんな声も届かない。
何も私に届くものなんてない。
どうやって家まで帰ったかはよく覚えていないけど
「あら?美織、早かったのね?」
と声を掛けたお母さんを無視して部屋に飛び込んだ私は、テーブルの上に置いてある作りかけのサンキャッチャーをみんな手で払い落とした。
壁に床に打ち付けられて、硝子が悲鳴のような音をたてて割れていく。
「こんな…っ、こんな物…!!」
部屋中に光の欠片が散乱し、みっともない眩さを散らかしていく。
『貴方の作られるオブジェは、美しいだけじゃなく心を癒してくれます』
『優しい光に囲まれてたゆたう時間は幸せですね』
『鈴原さん、僕はそんな貴女の作るサンキャッチャーを扱わせて頂いて本当に光栄に思います』
「……うそつき…!うそつきっ!!」
硝子の欠片がキラキラと、私の払う手に纏う。
涙の雫のようにキラキラと。
「美織!?何してるの!?」
物音を聞き付けたお母さんが部屋に駆け込んで腕を掴んだ時には、私の手は血まみれだった。
私の砕いた硝子が、私を傷付けて。
「…お母さぁん…」
子供のように母にすがって泣く私は、ボロボロで情けなくって。
部屋には粉々の硝子と粉々の心が、悲しく散らかっていた。