腕枕で眠らせて
「たしかに、それはちょっとやましいなあ」
コンビニで買ってきた缶カクテルを飲みながら、佐知が眉間に皺を寄せた。
私は頷く代わりに視線を伏せて、手元の温めた梅酒の入ったカップを見つめた。
ほわりとした湯気が梅の香りとアルコールの香りを交ぜて鼻孔を通り過ぎる。
「仕事だから四六時中いっしょなのは仕方無いけどさ、でも、だったら尚更隠さないでいて欲しかったよね。
それにその女の態度からして引き摺ってないなんて嘘だよ。好戦的で気付いてくれって言ってるようなもんじゃん」
佐知の言葉は的確で、私の感じていた嫌なものをおさらいの様に口にしてくれる。
「紗和己さんと玉城さん…もしかしたら本当はまだ切れてなかったのかな…」
自分で言ったもしかしたらに盛大なダメージを受ける。自虐過ぎたと後悔しながら梅酒を啜った。
「どうかなあ。隠してた事を考えるとそう疑いたくなっちゃうよね。
けどさ。美織の話聞く限りは、社長、二股するようには思えないんだよねえ。凄く優しい人だったんでしょ」
確かにそう思う。あんなに優しい人が、って。でも。
「…そんな事言ったら、楷斗だって最初は凄く優しい奴だったよ…」
男は、女が自分から離れなくなるまでは必死で追い掛けて優しくして甘い言葉を紡ぐ生き物だって。前の恋で散々学んだんだ。
だとしたら。優しさが狡さに比例するようで私はますます虚しくなってしまうけれど。
カクテルの缶をぶらぶら指で弄びながら、佐知が天井を見つめ何かを考えていた。
「うーん……」
「何?」
二人の間にあるテーブルに、身を乗り出して聞いてみた。
佐知はぶらぶらを止めないまま視線だけを私に戻すと、なんだか複雑な顔をして
「…社長が、その女店長と付き合ってたって話は本当なのかな」
と、ほのかな桃のカクテルの香りと共に私に尋ねた。