腕枕で眠らせて
「美織さん…、」
呼び掛けて、紗和己さんがドアの前まで駆けてきた。
どうしよう。もう逃げられない。
心臓がドンドン言ってる。
正面に立った紗和己さんの姿にビクリと緊張が走ったけど。
彼がとった行動は、口を開く前にまず真っ先に私の左手を取ると云う予想外のものだった。
「…怪我…したんですか?」
どうして。
自分の事でもないのに辛そうにポツリと尋ねた紗和己さんの声に、 胸の奥から熱いものが込み上げた。
そうっと、そうっと。紗和己さんの手が包帯越しの私の手を撫でる。
「…大丈夫ですか?」
「もう…平気」
「痛くないですか…?」
「……………」
無言のまま、大きな手から逃げた。
ズルい。うそつきなのに。信じられないのに。
そんな優しさは、ズルい。
ポタポタと、白い包帯の上に涙が落ちた。
「…美織さん」
切ない声で、紗和己さんが呼ぶ。
砕けた心に沁みないはずの温かさは
なのにどうして、こんなにも私を揺り動かす。
「美織さん…聞いてもらえますか」
その問い掛けに反射的に首をフルフルと振った。
イヤだ。これ以上真実を知るのが、傷付くのが、怖い。
「美織!逃げてる場合じゃないよ!!」
奥に立っていた友人の叱咤激励に、初めてその存在に気付いた紗和己さんが目を丸くしながらペコリと頭を下げた。