腕枕で眠らせて
「僕は昔から雑貨やインテリアオブジェが好きで、大学を卒業したら友人と共同経営で雑貨店を開くことを決めていました。
付き合いの長い友人で、趣味も考えも合う彼を僕は心から信頼していたんです。
在学中からふたりで経営資金を集めて取引先も作って店舗のテナント契約もして…全て順調の筈でした。卒業の日までは」
初めて話してくれた紗和己さんの過去は、とても切ない音で紡がれていた。
私は冬の寒さも忘れ耳を傾け立ち尽くす。
「卒業式の翌日、その友人が経営資金の全てを持って失踪しました。お店のオープンを1ヶ月後に控えた日の事です」
「…!!」
表情を変えた私を見ても、紗和己さんは目を逸らさなかった。ただ真っ直ぐに、話を続ける。
「その時はショックなんてものじゃありませんでした。
これからどうすればいいのかとか、お店を開くどころの話じゃないとか、そんな事よりもただ、友人が僕を裏切った事が辛くって。
…とても多くの人に迷惑を掛けて、結局お店も開く事は出来なくて、大きな借金も抱えました。
そんな日々を過ごしながら僕の頭にあるのはずっと友人への怒りと絶望でした。どうして僕を裏切った、どうして、どうして、って」
そんな辛い話を紡ぎながら、紗和己さんはふっと力無く笑う。
「信頼してた友人に裏切られ不幸のどん底に突き落とされて。僕は、誰も信じられなくなったんですよ」
粉々になった心の話を、けれどこの人は穏やかに微笑んで私に告げた。