腕枕で眠らせて



「ガラにもなく塞ぎこむようになった僕を見かねて、ある日、姉がプレゼントをくれたんです。

『紗和己、こういうの好きでしょう。ネットの友達に頼んで作ってもらったよ』って」



…………思い出した。



思い出した。思い出した。



目の前のオレンジのストラップと紗和己さんの話がリンクする。リンクして、私の記憶のページを勢いよく捲っていく。



水嶋 柚果莉。ユカちゃん。



高校生の時、私の作るストラップを気に入ってよく買ってくれた人で。

何度も取引するうち年の差も越えて友達になったんだ。

直接会うことは無かったけど、時々メールのやりとりをしてて……ある日、ユカちゃんにお願いされたんだ。


『うちのサワが落ち込んでるから元気になれるストラップを作って欲しい』

って。



「姉からもらった袋を開いて出てきたのは…オレンジの硝子のストラップとメッセージカードでした。


『サワちゃんが幸せになれるよういっぱい願いを籠めて作りました。サワちゃんにHappyが訪れますように』って。


……カッコ悪い話ですけど、僕はそれを見て泣いたんです。

僕を裏切った友人がいる一方で、顔も知らない少女が僕の幸せを願ってくれている事に。ただ無条件に僕の幸せを願ってくれたその存在が嬉しくて」



そう言って笑う紗和己さんの手の中で、オレンジの硝子がふわふわと温かい光を踊らせている。



思い出す。思い出す。


この硝子を紡いだ時の事を。


ユカちゃんの大切な家族を元気付けたくて、顔も知らないサワちゃんを励ましたくて、精一杯の祈りを籠めて作ったんだ。


温かいオレンジと純粋な透明を紡いで。優しい色を紡いで。幸せになってと。




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