腕枕で眠らせて
「会った事もない声も知らない少女に励まされて、僕はもう一度立ち上がることが出来たんです。
また、人を信じてみようと。
世界の何処かに僕の幸せを願ってくれる人がいると云う事は、僕にもう一度人には信頼する価値が有ることを見出ださせてくれたんです」
ふわりと笑って、紗和己さんはオレンジの硝子ごと私の手をゆるく握った。
「そしてあの日から、僕は恋をしています。
掛け値なしに他人の幸せを願える少女に、8年間ずっとずっと憧れ続けているんです」
握られた手から伝わるものは
紗和己さんの純粋な想いだと感じた。
「去年の春、偶然ネットで貴女のサンキャッチャーを見つけて、貴女に会う事が出来て、僕は心に決めたことがあるんです」
心は目に見えない。それを信じるのはとても難しいけれど。
「今度は僕の番だと。8年前、僕に信じる心をくれた貴女に、今度は僕が幸せを届ける番です」
「……紗和、己さ………」
「不甲斐ない僕を今すぐ信じろとは言いません。けれど、どうか貴女の幸せを隣で願わせて下さい。そして」
紗和己さんの大きくて温かい手が、私の頬をゆるりと撫でる。
「いつか年月を重ねた末に、この想いを信じてもらえる日が来たら…僕はそれだけで、充分です」
信じることは難しい。
それが砕けた心なら尚更。
だけど。
それに長い時を掛けて向き合う事なら出来ると。
貴方の大きな手が、教えてくれました。