腕枕で眠らせて



『無かった事にするんじゃなくて、その想いを抱えた事も含めてもっと良い関係が築けたらいいなって。

そう玉城さんに伝えたら『いい歳して夢見がちな事言わないで』って叱られちゃいました。『普通こういう時は黙って見送るのが大人のルール』だとも。

『オーナーは鈍感だ』とか『女心が分かってない』とか色々言われちゃいましたけど『天然タラシ』は結構グサリと来たなあ。僕、そんな嫌なヤツですか?


…でも、最後に『けれど経営者としての貴方はこれからも尊敬し続けたい』って…言ってくれました。

それから、『鈴原さんにごめんと伝えて』とも』




そう言って最後に微笑んだ紗和己さんの笑顔を、綺麗だなと思った。


自分を偽らないで生きてる人の笑顔は、時に弱い事があっても、でもとっても美しいんだなって。



そして、紗和己さんは素直な笑顔で私に告げた。



『僕は本当に色々情けない人間です。

けど、誰かに支えてもらった分、必ず成長していくつもりです。

美織さん。こんな不甲斐ない男ですけど、どうか呆れずに隣にいてやってくれませんか』



人生は長いと。以前、紗和己さんは言った。

私の傷が癒える日も、紗和己さんが成長していく日も、ふたりの心が重なっていく日も、きっと長い道のどこかにあって。



『ゆっくりいこう、紗和己さん。

私も紗和己さんも一緒に、もっともっと強くて優しくなりましょう。

ずっと隣で手を繋ぎあって。朝を迎える度にひとつ、前に進みましょう』



私も、素直に笑えてるといいなと思いながら伝えた言葉に、紗和己さんは零れそうな幸せを目元に湛えると

優しく握った私の手に愛しそうにキスをした。








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