腕枕で眠らせて



「やだ、美織怒んないでよ。ほら、座って」


楷斗を見止めたまま動かない私を見て、愛子が立ち上がりグイグイと腕を引きに来た。


そうして無理矢理座らされた席はよりにもよって楷斗の隣。



「ちょっと待って。どういう事?私聞いてないよ!」


椅子から立ち上がろうとした私に今度は隣の楷斗が


「いいからほら、まずは乾杯しようぜ」


と、手にグラスを持たせる。


それに間髪入れず愛子がビールを注ぐと

「それじゃ、かつての同僚仲間の再会にかんぱーい」

と楷斗が強引にグラスをカチンと合わせた。



なんなのこれ。どういう事なの。


私がビールに口も付けずそう言おうとすると

「ごめんね美織、ビックリしたよね。でもさ、楷斗にどーしてもって頼まれちゃって。

楷斗、美織に謝りたいんだって」


愛子が先に話を始めた。



持ったままのグラスが次第に汗を掻いてきて手を濡らす。

私は口を付けないままそれを置いた。



「昨日、急に楷斗から電話掛かってきてさ。私もビックリしちゃった。

3年前、美織に悪い事したのを謝りたいって。でもほら、楷斗いまの美織の連絡先知らないでしょ?

それにいきなりは多分会ってくれないだろうから、私に間に入って欲しいって頼まれちゃって」


うん。絶対会わなかった。
て言うか知ってれば今日、愛子がいたって来なかったよ。


口を引き結んだままの私の隣で、楷斗が「そーそー」と楽しそうに相槌を打ちながらビールを飲んでいた。



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