腕枕で眠らせて
「愛子、ごめん。また連絡する」
そう言ってテーブルに千円札を置いた私は、止める二人の声を振り切って早足で店から出た。
笑い声や煙草の煙を通り過ぎて出た店外は突然寒くって、ブルッと身震いしてから慌ててマフラーを巻いた。
首を上げると冬の空が見える。
たくさんのビリビリに破れた雲が風に押されて凄い早さで空を駆けてる。
時折、その隙間から頼りない明かりの星が見えた。
―――ああ、紗和己さんに会いたいな。
見上げていた瞳からぽろんと涙が零れた。
私はまだまだ弱いなあ。紗和己さんが隣にいてくれないと上手に前に進めないや。
情けなくって涙が出ちゃうよ。
もしかしたら前に進める夜だった。
過去の傷と向き合って、嫌な思い出に縛られる自分を解放してあげられたかもしれないのに。
強くなって、愛子の言う通り仲間に戻れたかもしれないのに。
……簡単には出来ないなあ。
ずっと前に紗和己さんが、玉城さんに
『無かった事にするんじゃなくて、その想いを抱えた事も含めてもっと良い関係が築けたらいい』
って言ってたけど。
凄いな、紗和己さんは。
私にはとっても無理だよ。
もっと良い関係なんて。想像もつかないや。
これ以上、見上げた星が滲むのが辛くって。
私は涙を拭ってくれる人の電話番号をタップした。