腕枕で眠らせて
「さ、紗和己さん」
「なんですか」
私は温かいコーヒーカップを両手で握りながら、その温もりに背中を押されて顔を上げる。
「今日、楷斗と会ってしまったのは私の迂闊さが悪いと思う。私もだけど、紗和己さんにも嫌な気持ちにさせてしまって反省してる。
でも…でもね。
……私、今日、楷斗に会って、乗り越えたいとも思ったの。
いつまでも楷斗のコト憎んで嫌って避けてるのは、もう終わりにしたいって」
この気持ちが伝わるように一生懸命紡いだ私に、紗和己さんは少し驚いた顔をしてからまっすぐにこちらを見た。
コーヒーの湯気が、張り詰めた空気をわずかにも和らげてくれている。
「前に、紗和己さん言ってたよね。『無かった事にするんじゃなくて、その想いを抱えた事も含めてもっと良い関係が築けたらいい』って。
私もそうしたいと思ったの。
楷斗との事いつまでも辛い思い出としてじゃなく、そんな事もあったねって笑えるようになりたいの。
いつまでも、心の中に嫌いな人を作っておきたくないの」