腕枕で眠らせて
だって、あの時はまだ信じてたから。
この恋が一生続くんだって、いつまでも一緒にいる人なんだって信じてたから。
「お前さあ、俺との結婚マジで考えてたよな」
バフッ
私は手に持っていた追加のタオルを楷斗の顔に押し付けて口を塞いだ。
「…タオルあげるから帰ってよ」
グジグジと眠っていた傷から血が滲み出す。
どうして。この男は。
抱きたくなかった怒りの感情が首をもたげる。
どうして。そこまで私の気持ちを分かってて、あんな酷い事を。
「なんだよ、照れんなよ。俺は別に構わないんだぜ?」
「…は?」
「結婚を前提にやり直したって」
怒りと呆れが、突き抜けてしまった。
「帰ってよ!!!」
感情が爆発して、目の前の楷斗を追い出そうと濡れたスーツごと体を手で押しやった。
大失態。
その感情的で無防備な私の腕を、冷たい手で掴まれて。
驚く暇もなく、腕を引かれビショビショの胸に器用に抱き寄せられて。
その冷たさと感触と現実に、死ぬかと思った。