腕枕で眠らせて
「離してよ!馬鹿!!」
ひんやりとしてグッショリとした腕から逃れようと、ジタバタともがいた。
「やり直そ、美織。今度はちゃんと大事にするから」
「無理って言ったでしょ!離して!バ楷斗!!」
「何それひでえ」
あまりの私の剣幕に、楷斗がパッと腕を開いた。
「なんかお前変わったなあ。前はもっと素直だったのに」
「今も充分素直よ!!」
激怒して腕から逃げ出した私と対称的に楷斗は憎らしいほど飄々としてる。
「まあいいや。お前今一人?」
「だったら何!?」
「風呂と服貸して」
「はぁっ!!?」
開いた口が塞がらないとはこの事か。
どうしてこの状況でこの男はそんなお願いが出来るのか、一周回って感心してしまう。
しかも、私がウンともスンとも言う前に楷斗は「おじゃましまーす」と言ってサッサと上がり込んで来るもんだから、開いた口はますます塞がらない。
「ちょっ…待ってよ!勝手に上がらないで!」
「しょうがねえじゃん。こんなビッチョンコじゃ俺電車にも乗れねえよ。お前、弟いたよな?そいつのでいいから服貸して」
強引で。マイペースで。人の事全然考えなくて。非常識で。
そうだ。そう云う男だったんだ。
ああヤダ。ヤダ。ヤダ。
今更もっと失望していく。
あの頃の自分に失望してしまう。