腕枕で眠らせて
無理。
無理。無理だ。
乗り越えようだなんて、新しい関係を築こうなんて、こんなヤツ相手に無理だったんだ。
「えーっと、風呂ここか?
美織、バスタオルと着替え置いといてな」
立ち竦む私の耳に楷斗の声が不協和音に響く。
3年越の彼への嫌悪感が爆発しそうになる。
もう、限界だ。
今からでも遅くない。叩き出そう。力付くでも無理矢理にでも。そして二度と関わらないんだ。顔も見たくない。
腹が立って悔しくて、涙が滲んできた。
握った拳でそれを拭うと、透明の雫が手の甲に乗った。
---けれど、時にひとりで向き合いきれない時は僕を呼んで下さい。無理をして、僕の気付かない間に傷付いて泣くような事だけは…僕は絶対嫌ですから---
ふいに、紗和己さんの言葉を思い出した。
手の甲の涙を見つめて、思い出した。
「紗和己さん……」
私は唇を引き結ぶと、もう一度拳でグシグシと目元を拭ってから自分の部屋へ駆けていった。