腕枕で眠らせて
「あれ?えっと…彼氏だっけ?なんでここに?」
「私が呼んだの」
目をぱちくりさせながら不思議そうに聞いた楷斗に、私は隣に立つ紗和己さんの手をぎゅっと握りながら答えた。
さすがの楷斗も驚きの表情を浮かべながら口元が“まずい”と言わんばかりに引きつっている。
それでも元からの楽観思考で楷斗はへらりと笑うと
「あ、そうなの?」
と飄々と言いながら濡れた髪を拭いた。
…どういう神経してるの。
刹那、楷斗のペースに飲まれそうになりながらも、私は紗和己さんの手を繋いだままグッと一歩前へ進み出た。
「楷斗、聞いて。
私、何と言われてももう楷斗とは絶対やり直せない。
あんな事をした貴方に二度と恋愛感情が沸く事は無いから」
言い切った私に、楷斗がムッと不愉快そうに口をへし曲げた。
「なんだよ、仲直りしたんじゃ」
「でもね」
反論しようとした楷斗の言葉を無理矢理に遮る。
繋いだ手の温もりが私を俯かせない勇気をくれているから。
「私、もう楷斗のコト恨みたくない。嫌いでいたくないと思ってるの」
未だ降り頻る雨の音の中で伝えたそれに、楷斗の表情がふと変わった。
繋いだ紗和己さんの指にも、きゅっと力が籠められた。