腕枕で眠らせて
「紗和己さん、来てくれてありがとう。ごめんね、急に呼んだりして」
「いいんですよ、今日はちょうど在宅の仕事でしたし。来ることが出来て良かった、運が良かったです」
「服も持って来てくれてありがとう。貸しちゃってゴメンね。楷斗ちゃんと返しに来るかな」
「きっと楷斗さんなりに気持ちの整理がついたら来ると思いますよ。それまでゆっくり待ちましょう」
私の背中を優しく撫で続ける紗和己さんの手の平を感じながら、改めて彼の懐の広さに感心する。
すごいな、紗和己さんは。
私も貴方のようになりたい。
もっと強く、なりたい。
けれど。
紗和己さんは私を撫で続けながら、小さな声でふいに呟いた。
「美織さん、ありがとう」
って。
耳に掠めるだけのささやかな声だった。
けれど、切ない色で。
「僕を頼ってくれて、僕を選んでくれて、ありがとう」
って。
「……紗和己さん……!」
ありったけの気持ちと力を籠めて、紗和己さんを抱きしめた。
雨の音が玄関の扉越しに聞こえる。
けれどそれ以上に、くっついた彼の鼓動が鮮やかに聞こえた。
離れない。離れない。離れない。
紗和己さん。
きっと永遠に貴方から、私は離れない。
苦しくても支えてくれる事をやめなかったその手から、絶対に離れたりしない。
「紗和己さん。好きだよ。誰より好きだよ。好き。これからもずっと好き。好き。好き」
飾らな過ぎた言葉は、ほのかに切ない雨の音と彼の温かい鼓動に溶けていった。