腕枕で眠らせて
二人無言のまま、車は動き出した。
私はずっと窓の外を見続けていたから、水嶋さんがどんな表情をしていたか分からない。
ボサノバの優しいリズムが耳を滑っていく。
駅で車を停めた水嶋さんは、私より早く運転席を降りた。
そして、助手席側に回ると車を降りようとした私に
「本当に申し訳ありませんでした」
そう言って、頭を下げた。
そんな水嶋さんの横を、無言で俯いたまま通り過ぎようとした時、
「…貴女に…こんな顔をさせるつもりじゃなかった」
苦しそうにボソリと、零れた声が、聞こえた。
立ち止まれなくて、振り向けなくて。
駅のホームまで行ってやっと振り返って見たとき
まだ、駅前に水嶋さんの車が停まってるのが見えた。
優しい人を汚く傷付けた私は
もうきっと綺麗なサンキャッチャーは作れない気がする。
幸せな気分になると言ってくれた光のたゆたう硝子のオブジェを
もう私は作れない気がする。