腕枕で眠らせて
「…好きな人がいました。
就職したばかりで初めて独り暮らしをして不安だった時に、とても親切にしてくれた人で。一緒にいて面白い人で。私、その人と付き合いました」
唇が思い出を紡ぐ度、ズクリと私のどこかが痛む。
「でも、私は彼にとってただの浮気相手で。…二股懸けられてたんです。なのに、でも、それでも好きで離れられなくて」
自然と胸の前に置いた手がぎゅっと拳を握る。微かに震えて。
「そのうちもう一人の二股の相手に嫌がらせされるようになって…辛くて、夜眠れなくなって、ノイローゼみたいになっていって…」
水嶋さんが、一瞬何か言おうとして口を開き掛けて止めたのが、俯いたわたしの視界のはじっこに映った。
「限界まで追い詰められて、初めて彼に話したんです。辛いって…泣いたんです。…でも…」
ズクリ、ズクリ。
二度と思い出したくなかった傷が、未だ新鮮な血を流す。
「気のせいじゃない?って。…笑いながら……私の事…突き放した………」
痛い。痛い、痛い。
痛くて涙が止まらない。
声が詰まる。
痛い。痛いの。