腕枕で眠らせて



「じゃあ、大丈夫ですね」


本当に安心したように水嶋さんが笑う。

私もそれに黙って笑い返す。

二人の間にゆっくりとした空気が漂って、心地いい。



水嶋さんと会ってから私は沈黙の心地好さを知った。


他の人とは気まずく思えてしまう無言の空間も、どうしてか水嶋さんとならゆったりと感じられる。


目に見えない流れる空気がふうわりと移ろって、呼吸するだけでそれは幸せなほど柔らかい。


きっとそれは、水嶋さんがいい人だから。


沈黙を許してくれる存在って、なかなかいない。


黙っていても不安にならない、不思議な人。



……今まで、私の隣に並んだ恋人でさえ
こんな気持ちにはさせてくれなかったのに。




「鈴原さん」

「はい」


沈黙の延長線にあるような静かな声で水嶋さんが呼び掛けた。



「月が綺麗ですね」

「…本当だ」



見上げた空にゆらり三日月。

周囲の雲を月明かりに染めながら、空高く、ゆらり、綺麗。


綺麗。





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